2005年 06月 18日 ( 1 )

時計の思い出

c0039094_4301272.jpg「明日、どの時計を身につけようか…」そんな意味の無いようなコトを考えて、手元にある時計を眺めてみる。

 「時間さえ判れば」と割り切ってしまえば、どの時計だって同じだ。
 正確な時間を知りたいと思うのならば、携帯電話の時計や、駅等に設置されている時計を見れば良いんだ。
 しかし、私の手元にある時計達は全部違うのだ。
 自分で手入れをして、その時々の自分の生活に合わせて調整したということもさることながら、縁あって私の手元に届き、「私の時間」を刻んでくれる大切な伴侶なのだ。

 この時計は「Seiko Sea horse」。
 日本語で言えば「セイコータツノオトシゴ」やね。(笑)
 「高級腕時計」とは縁遠い、機能的にも性能的にも一般的な17石の手巻中三針腕時計なのだが、この時計は私にとって思いで深いものなのだ。

 遡る事20年近い前の中学生の頃…

 不動であったこの時計を手に入れた時、私は無理矢理に近い方法で裏蓋を開け、中の機械を オーバーホールするつもりで何も考えずに注油した。
 結果は悲惨なもので、キズは付くわマトモに動かないわで、業を煮やして通学路近くにある、時々覗き込んでいた時計屋サンに持ち込んだ。
 もちろん、自分でイジッタ事なんておくびにも出さずに「まるで時間が合わないのデス」なんて言って。

 時計屋のオジサンは「ちょっと見せてね」と言って、私がぞんざいに扱った「タツノオトシゴ」を丁寧な手つきで受取り、キズミ(傷見=ルーペ)で全体を見渡して、そして、チラっと私の顔を見た後に「ふぅむ、何だか無理矢理開けた形跡があるね」と言った。
 私は、「バレた!」と思い、身が引き締まる思いをした。
 時計屋のオジサンは淡々と機材を取り出して「こういうタイプの時計はね、こういう機械を使って開けなきゃなんないいんだよね」と言いながら簡単に機械を開け、機械をキズミで見ながら「あぁ、こりゃ油の注し過ぎやね。いや、こぼしたんかなぁ?」と言った。

 オジサンは「ひょい」とキズミを外し、私の顔を見た。
 そして、ピンセットで部品を指しつつ「ほら、ココ。ココに油が付いてしまうとダメなんよ。判るやろ?ここに油が付いてしまっとるけん、動きがウマイこと行かんようになりよるんよ」。

 「…どうしたら良いですか?」
 「そりゃ、この汚れを取りゃ問題ナイよ。」
 「どんくらいかかるですか?」
 「ちょい待っとき、コレやったらスグ終わるけん。」

 オジサンは「超音波洗浄機」を使って汚れを落とし、「ココはね、あんまり油注しすぎてもイカンのよね」と言いながら注油、組み立てると、「タイムグラファー」(時間差を計測する機械)を使いながら調整する全ての行程を私に見えるように行った。

 「はい、これでしばらくは大丈夫やろ」
 「ありがとうございます…でも、僕、今日修理代持ってないですが…」
 「ははは。機械(タイムグラファー)じゃ時間が出とるばってんが、実際使ってみたら時間は出んかもしれん。また、そん時持って来たら良かたい。そんで、時間が出るごとなったら修理終了。そん時に修理代貰おうかね。」

 その後、この時計は順調に動きつづけた。

 高校に入り、中学の頃とは正反対の通学路を通っていた私に「時計屋サン」は縁遠いものになっていたものの、時たま店の前を通る度に気になっていた。
 大学に合格して郷里を離れ一人暮らしをすることが決定した時、「一時の別れ」を告げるために自転車で各所(カメラ屋サンとか骨董品屋サンとか…)を廻っている時に、あの時計屋サンにも足を運んだ。

 久しぶりに足を踏み入れた店内は少し雰囲気が変わっていて、シンと静まり返っていた。
 いや、壁に掛かっている時計、並べられている時計は以前と同じように時を刻んでいた。
 しかし、オジサンが居た作業机には誰も居ない…。
 不思議に思っていると、オバチャンが顔を出した。

 話をした。

 今日来たワケを話し、オジサンが居ない理由も聞いた。
 色んな話を聞いた。オバチャンも私のコトを知っていた。
 あの時、オジサンは何だか嬉しかったらしい。

 去年、その道を通った。
 お店は…無くなっていた…。

 ただ、時計は動きつづけている。
 耳を近づけると、経年変化が出てもおかしくないのに、一般的な「カチカチ」ではなく、充分に整備された時計特有の「シャンシャン」という音と共に正確に時を刻みつづけている。

 この音を聴くと、私の心が調整されるような気持ちになる…

Kodak DX6490 Digital Camera
Schneider-Kreuznach Variogon 38-380mm
Belichtungsautomatik

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by coopiecat | 2005-06-18 04:35